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千葉地方裁判所 昭和47年(ワ)38号 判決 1972年10月16日

原告 武田忠夫

右訴訟代理人弁護士 宮瀬洋一

被告 株式会社兵庫県月の友の会

右代表者代表取締役 三木正己

右訴訟代理人弁護士 辻武夫

主文

一、被告が香田照昭に対する神戸地方裁判所姫路支部昭和四五年(ワ)第二九二号売掛代金請求事件の判決に基づき別紙目録記載の物件に対してした強制競売の売得金について、原告が三〇〇、〇〇〇円の限度で被告に優先して弁済を受ける権利を有することを確認する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四、本件について当裁判所が昭和四七年一月二六日にした強制執行停止決定を取り消す。

五、この判決確定前に一項記載の競売事件の配当を実施する場合には執行官は、売得金のうち一項記載の金員を、原告のため供託せよ。

六、この判決の主文四、五項は仮に執行できる。

事実

第一、申立て

(原告)

一、被告が昭和四七年一月一四日神戸地方裁判所姫路支部昭和四五年(ワ)第二九二号売掛代金請求事件の判決の執行力ある正本に基づき別紙目録記載の物件に対してなした強制執行はこれを許さない。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求の原因

一、被告は、訴外香田照昭に対する金銭債権の強制執行として、主文一項記載の債務名義に基づき、昭和四七年一月一四日別紙目録記載の有体動産を差押えた。

二、しかし右物件は、原告が昭和四六年三月三一日香田照昭に対し三〇〇、〇〇〇円を弁済期同五一年三月三一日の約で、利息の定めなく貸し付け、その担保として同四六年一一月一六日に香田照昭から信託譲渡を受けたものである。

三、従って、右物件は、原告の所有に属し、被告の香田照昭に対する債務名義によって強制執行を受けるべき対象ではないから、右強制執行は許されない旨の判決を求める。

第三、答弁

一、請求原因一の事実を認める。

二、同二の事実を否認する。本件物件は香田照昭の所有である。

第四、抗弁

仮に請求原因二の事実が認められるとしても、それは香田照昭と原告が、強制執行を免れるために通謀してした虚偽の意思表示であって無効である。

第五、抗弁に対する原告の認否

抗弁事実を否認する。

第六、証拠≪省略≫

理由

一、請求原因一の事実は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すると、請求原因二の事実を認めることができ、抗弁事実を認めるに足る証拠はない。

二、債権担保のために所有権移転の形式をとった場合(譲渡担保)は、債権者のために優先弁済権を確保すれば目的を達するのであるから、債権者は、弁済期に弁済がなければ、譲渡担保物件を換価処分してその代金を被担保債権の弁済に充てることができるけれども、残額があれば物件提供者に返還すべきであり、逆に換価金が被担保債権に足りなければ、債権者は不足金について債務者の財産について債権者の財産に執行できるものと解すべく、一方、債務者は、債権者が換価処分(または評価清算)をするまでは、被担保債権を弁済することによって、譲渡担保物件を取り戻し得るものと解するのが相当である。従って債権者が、右処分をするまでに、譲渡担保物件について第三者に主張できる権利は、目的物についての優先弁済権のみであって、担保の目的をこえて所有権を主張し、第三者異議の訴えによって後順位債権者の強制執行を全面的に排除することは許されず、民事訴訟法五六五条の優先弁済の訴えが許されるにとどまるものというべきである。

三、原告の被担保債権の弁済期が未だ到来せず、かつ譲渡担保物件の使用が設定者である香田照昭に委ねられていた本件事案のもとにおいて、原告の権利は、右二に述べた譲渡担保権者の権利であること明らかであって、本訴請求は、優先弁済権確認の範囲においてのみ認容されるべきである。よって、同法九二条、五四七条、五四八条、五六五条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木村輝武)

<以下省略>

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